AI エージェントの知識構造の全体像
結論を先に: AI エージェント (Claude Code) に与える指示・知識は、1 つのファイルではなく 6 つの層に分けて置いている。理由は 3 つ。常時読む量を軽くする・取り返しのつかない操作を機械的に止める・何をなぜ守らせているかを後から監査できるようにするため。このページはその全体を 1 枚で見渡す入口で、経営者・非エンジニアにも読めるように書く。層ごとの詳細仕様・撤退条件は agent_knowledge_layers.md が正典。
1. 用語定義(このページで使う呼び名)
このリポジトリは 1 つの会社システムを複数の構成単位で運用している。構成単位の総称は「ドメイン」と呼ぶ。技術的な独立性を強調する文脈では「サブシステム」、説明の場では「アプリの塊」と言ってもよい。
| 識別子 | 技術名 | このページでの呼び名 |
|---|---|---|
mas | GAS 会計本体 | 会計本体(GAS) |
drp | drp | 審査パイプライン(DRP) |
web_app / webapp | webapp-client SPA | Web アプリ |
docs | docs サイト | ドキュメント(docs) |
このほか、本ページ固有の用語を 2 つ定義する。
- クローン: 同じリポジトリの複製。実装担当の main と、ドキュメント担当の doc がそれぞれ別のクローンで並行作業する。
- ロード: エージェントがセッション中にそのファイルを読み込むこと。「常時ロード」は毎回必ず読む、「オンデマンド」は必要になった時だけ読む、の意味。
2. 全体像の図
エージェントの 1 セッションを時間軸で見ると、知識は次の 3 つのタイミングで効く。
flowchart LR
subgraph start["セッション開始時(常時ロード)"]
c2["② CLAUDE.md
禁止則・役割境界"]
c3["③ CLAUDE.local.md
このクローンの役割"]
c4["④ auto-memory の索引
進捗・申し送りの見出し"]
end
subgraph work["作業中(必要な時だけロード)"]
c5["⑤ Skill
操作手順"]
c6["⑥ docs/_internal
背景・ポリシーの正典"]
c7["ドメイン規約
.claude/rules・drp/CLAUDE.md"]
end
subgraph exec["コマンド実行の瞬間(機械強制)"]
c1["① hooks + 権限設定
不可逆操作を拒否"]
end
start --> work --> exec
設計の原則は 1 行で言える: 常時ロードは軽く、重い手順は必要な時だけ、絶対の禁止は読解に頼らず機械で止める。
3. 6 つの層 — 何を・どこに・なぜ
| 層 | 置き場所 | 何を置くか | いつロードされるか | 誰に見えるか |
|---|---|---|---|---|
| ① hooks + 権限設定 | scripts/hooks/ + .claude/settings.json | 不可逆操作の禁止。main への直接 push・機密のコミット・rm -rf など | コマンド実行の瞬間に機械が拒否する。エージェントが読まなくても効く | hooks スクリプトは全クローン共有。設定は各クローンでセットアップする |
| ② CLAUDE.md | リポジトリのルート | 常時効くべき少数の禁止則と役割境界。上限の目安は行数で管理する(§5.1) | 毎セッション全文 | 全クローンと CI |
| ③ CLAUDE.local.md | リポジトリのルート(git 管理外) | このクローンの役割の固定。個人パス・接続設定 | 毎セッション全文 | そのクローンだけ |
| ④ auto-memory | リポジトリの外(ユーザー個人領域) | セッションをまたぐ状態。案件の進捗・次のアクション・行動の補正 | 索引は常時、本文は必要時 | そのユーザーだけ。main と doc でも互いに見えない |
| ⑤ Skill | .claude/skills/ | 呼び出して使う操作手順。例: DRP の API 操作、仕様書生成パイプライン | 見出しは常時見え、本文は呼んだ時だけ | リポ横断の手順 4 本は全クローン共有。個人ツールは本人だけ(§5.4) |
| ⑥ docs/_internal | リポジトリ内の docs | 背景・設計・共有ポリシーの正典 | 参照時だけ | 全員。docs サイトにも公開される |
このほかに、ドメイン規約を置く path-scoped rule(.claude/rules/docs.md・gas.md)と nested CLAUDE.md(drp/CLAUDE.md)がある。該当ドメインのファイルを触った時だけロードされる仕組みで、層②の肥大を防ぐ受け皿になっている(ADR-0129)。
この表に中身を書かない層が 1 つある。 ④ auto-memory はリポジトリの外にあり、個人の作業メモに相当する。ここでは「そういう層が存在し、状態の記憶を担う」ことだけを記す。
4. なぜこの構造か(効果の説明)
会社組織にたとえると分かりやすい。
- 就業規則(層②)は短く、全員が常に守る。分厚くすると誰も読まなくなる。
- 業務マニュアル(層⑤・⑥)は棚にあり、その業務をやる時だけ開く。
- サーバ室の物理ロック(層①)は、ルールを読んだかどうかに関係なく不正な入室を止める。
- 個人の手帳(層④)には自分の進捗とやりかけの仕事を書く。
この分担が狙う効果は ADR-0115 で 3 つに整理されている。
- 既知情報の再導出コストの削減: 認証手順や検証コマンドを毎回調べ直すムダをなくす。導入時の実測でセッションあたり 8〜10 回あった再調査を 3 回以下に減らすことが目標値。
- 誤実行ゼロ: 「読み忘れたので禁止操作をしてしまった」を、読解に依存しない層①で構造的に防ぐ。
- 監査性: どのルールがどこにあり、いつ効くかが一覧できる。本ページと層の責務表がその台帳になる。
5. 周辺の規約・運用(つまみ食い版)
5.1 ルートの行数上限と、置いてよいものの基準
- KPI-1: ルートの CLAUDE.md は 50 行以下を目標にする。常時ロードされる層なので、長さがそのまま毎セッションのコストになる。
- KPI-10: ルートに置けるのは「2 ドメイン以上から参照される」「不可逆またはドメイン横断」「ドメイン別ファイルでは検出漏れが起きる」のいずれかを満たす規約だけ。
- 2 つが競合したら KPI-10 を優先する。現在のルートは 52 行で、1〜2 行の超過は許容範囲内。
5.2 ドメインごとに開く場所を変える運用
作業するドメインに合わせて、Claude Code を開くディレクトリを変える。DRP の作業は drp/ で開く。会計本体(GAS)と横断作業はルートで開く。ドキュメント作業は -doc / -sub クローンで開く。こうすると nested CLAUDE.md と path-scoped rule が自然に効き、無関係なドメインの規約を読まずに済む。
5.3 ロードされたかどうかの確認方法
「規約がロードされたか」の判定の権威は InstructionsLoaded フックログである。エージェント自身の申告や、本文を grep して確かめる方法は見落としが起きるため、根拠にしない。
5.4 Skill の共有範囲と鮮度管理
.claude/は原則 git 管理外。ただしリポ横断パイプライン手順の Skill 4 本(drp-ops/spec-gen-pipeline/prompt-cicd/docs-ops)だけは.gitignoreの除外指定で全クローン共有にしている。個人ツールは管理外のまま。- Skill が古くなっていないかは CI が監査する(
scripts/skill-staleness-lint.mjs)。最終検証日が半年を超えた Skill には警告が出る。
6. このページと詳細仕様の役割分担
| ページ | 役割 |
|---|---|
| 本ページ | 入口。全体像・図解・効果の説明。経営者・非エンジニア向け |
| agent_knowledge_layers.md | 正典。層ごとの責務定義・書き分け決定表・運用ルール・月次チェック |
| ADR-0115 | 決定の記録。採用理由・撤退条件・効果測定の基準値 |
| ADR-0129 | ドメイン別の分割マップ。nested CLAUDE.md と path-scoped rule の設計 |
新しい知識を「どの層に書くか」迷ったら、本ページではなく agent_knowledge_layers.md の書き分け決定表(§3) を引くこと。