日本語の技術文章・ADR における「わかりやすさ要件」— 3モデル調査統合
ADR・技術文章を「わかりやすく書く」ための客観的な基準を、外部の確立された規範から集めたもの。2026-06-10 に Web 調査して収集。 結論を先に: 日本語のわかりやすさには公的な一次規範(文化審議会建議『公用文作成の考え方』2022 ほか)が存在し、当リポの既存ルール
.claude/rules/docs.md「DRP 文章方針」はそれとほぼ整合する。不足は (1) ADR 本文への未適用、(2) 冒頭の結論先行(要約)、(3) 審査過程の痕跡を残さない原則の明文化、の 3 点。追記 (2026-06-12): (2) は ADR-0138(新規必須化)・ADR-0139(「決定の早わかり」へ一本化)・ADR-0140(既存上位 20 本へ遡及)で解消が確定した。残りの最優先は (3) 過程痕跡の分離(行き先 = 構造正典の残論点台帳 P2)。 リンクは収集時点のもの。URL は時間で陳腐化しうる。姉妹文書: 構造のわかりやすさ要件(ミント ピラミッド原則)(構造の軸・本書は文の軸)・ADR 日本語 情報源カタログ。
調査方法(なぜこの確度づけか)
同一の問いを 3 モデルそれぞれにディープリサーチさせ、突き合わせた。確度は「3 モデル一致+一次出典」を最高とする。
| レグ | 調査方式 | 出典の質 |
|---|---|---|
| Claude | fan-out 検索 → PDF 取得 → 敵対的検証(3-vote) | 最強: bunka.go.jp の建議 PDF を逐語確認、KAKEN、査読論文 PDF。「ない」ことの確証も提示 |
| Gemini | Google 検索グラウンディング | 高: 実在 34 ドメイン(bunka.go.jp / jsa.or.jp / jreadability.net / ninjal.ac.jp / ieice.org 等) |
| GPT | web_search | 最弱: 文書再アップ集積サイト・企業ブログ依存。結論は他 2 モデルと概ね整合だが一次性が低い |
→ 同じ結論でも一次出典に当たれているのは Claude > Gemini > GPT。以下の確度ラベルはこの差を反映する。
A. 3モデル一致=高確度(一次出典あり)の要件
いずれも文化審議会建議『公用文作成の考え方』(2022) に逐語の裏付けがあり、やさしい日本語ガイドライン (2020) が独立に同型ルールを持つ。
- 一文一義(1文1メッセージ) — 公用文「一文の論点は、一つにする/一文の中に主語述語の関係を幾つも作らない」。3 モデル一致。
- 一文を短くする — 公用文「一文を短くする」。長文は係り受け・主述関係が乱れる。数値目安は C 節(割れる)。
- 結論先行(頭括式 / PREP / SDS / 逆ピラミッド) — 公用文「結論は早めに示し、続けて理由や詳細を説明する/結論はできれば最初の段落で示す」。
- 能動態・主語明示(受身形の濫用回避) — 公用文「受身形をむやみに使わない」。Nygard 型 ADR は Decision を能動完全文「We will …」で書くと規定。
- 二重否定の回避 — 公用文「二重否定はどうしても必要なとき以外には使わない(例: 〜しないわけではない → 〜することもある)」。
- 専門用語・略語の初出定義/段階処理 — 公用文「略語は元になった用語を示してから用い、必要に応じて説明を添える」。専門用語は「言い換える/説明を付ける/普及を図る」の三段階。
- 三項以上は箇条書き・情報の階層化 — 公用文「三つ以上の情報を並べるときには箇条書を利用する」。JIS Z 8301 も階層的箇条書きを要求。
- ADR は Context / Decision / Consequences の3点構造 — Michael Nygard "Documenting Architecture Decisions" (2011) が原典。Consequences は良い影響とトレードオフ双方を書く。
- ADR は検討した代替案と不採用理由を明記 — MADR、各社実務ガイド。「なぜ A でなく B か」を残し車輪の再発明を防ぐ。確度: 高〜中(原典より発展形)。
B. 一文の長さの数値目安 — 出典で割れる
原則は高確度・具体値は中確度。
| 数値目安 | 出典 | 用途 |
|---|---|---|
| 約 24 字 | やさしい日本語ガイドライン | 外国人・多様な読者向け(最も厳しい) |
| 30〜40 字 | ライティング実務記事・ツール | 一般的リズム目安 |
| 50〜60 字 | 文化庁『公用文作成の考え方』(2022) | 「50〜60 字になってきたら読みにくくないか意識する」 |
| 上限 100 字 | textlint preset-ja-technical-writing デフォルト | 機械的な最大値(IT 文書デファクト) |
→ 「短くする」は高確度の原則。具体値は読者層で変わる中確度。技術文書の実務閾値としては「目安 50〜60 字・上限 100 字」が公的+デファクトで最も支持される。
C. 定量指標(査読研究・高確度)
文章の読みやすさを機械で測る指標。実装の指針になる。
- jReadability / Lee & Hasebe (2016): 5 特徴の重回帰式=平均文長・漢語率・和語率・動詞率・助動詞率、R²=.896。漢語率が高いほど・文が長いほど難化。
- 柴崎秀子ら (2010, KAKEN 19300277): 4 特徴式=平仮名率・1 文平均述語数・1 文平均文字数・1 文平均文節数で学年推定、R²=.791。文節数=係り受けの深さが変数。
- Sato et al. (LREC 2008): 文字 unigram モデル、人手学年と R>0.9。
- 係り受けの深さの低減: 修飾語〜被修飾語の距離が遠い/入れ子だと一読で理解困難。
- 測定可能な軸(実装の指針): 平均文長・漢字(漢語)率・ひらがな率・文節数(係り受け深さ)・語彙難易度。
敵対的検証で棄却された主張: 「平均文長が単独で最強の可読性指標」→ 3-vote で棄却。文長は強い指標だが「単独最強」とは言えない。
D. ADR に審議・レビューの過程痕跡を残さない(最重要・当リポ直結)
当リポの核心的症状(後述)に直結するため独立して扱う。
| レグ | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| Gemini | 確度 高 | ThoughtWorks "Lightweight ADR" ほか。「ADR は議事録ではなく意思決定の台帳。プロセスから要点だけ抽出し抽象化する」 |
| GPT | 確度 高 | 実務テクニカルライティングガイド。「審議の逐語録は不要、背景欄で要約」 |
| Claude | 一次出典なし(open question) | MADR/Nygard は記述様式は定めるが「レビュー過程の非掲載」を明文化しているかは未確認 |
統合判定: 中〜高確度の実務規範。複数の独立した実務ガイドが一致して支持する=業界デファクト。ただし公的規範・原典レベルの一次条文は未確認。「ADR は決定の台帳であり議事録ではない/検討過程は要点に抽象化して残し、逐語の審査ログは載せない」は採用してよい原則。
E. 当リポの ADR への適用示唆
事前の定量診断(ADR 128 本・平均 180 行/ADR)と本調査を突き合わせると、改善の優先度が出る。
| 診断で見えた症状 | 該当する確立要件 | 優先度 |
|---|---|---|
| 「盲点#N 反映」34 本・「採点#N」3 本が本文に混入 | D(過程痕跡を残さない) | 最優先。中〜高確度規範に明確に反する |
| 平易な要約が 128 本中 1 本のみ(調査時点)→ ADR-0138/0139/0140 で「決定の早わかり」の必須化+遡及が確定し解消へ(2026-06) | A-3 結論先行(頭括式) | 高。公用文の一次規範 |
| 1 文に数値・enum・条件を詰め込み | A-1 一文一義 / A-2 短文 / B | 高 |
Kruchten Type 128 本・K.O. criterion 78 本・SSoT 42 本が無説明 | A-6 専門語・略語の初出定義 | 高 |
| 全角カッコ補足 平均 12.1 個/ADR | 括弧書きの抑制(中確度) | 中。一次性は弱いが docs.md 既存方針と一致 |
→ 既存の .claude/rules/docs.md「DRP 文章方針」(1 文 1 メッセージ・結論先頭・カッコ抑制・専門語は末尾へ)は、上記 A/B/D の確立要件とほぼ完全に整合する。不足しているのは (1) ADR 本体への適用、(2) 冒頭の結論先行(要約)、(3) 過程痕跡の分離原則の明文化。
F. 確立度が高い要件 トップ10(出典の強さ順)
- 一文一義 — 公用文 2022(一次・逐語確認)+やさしい日本語+JIS Z 8301
- 結論先行(頭括式) — 公用文 2022(一次・逐語確認)
- 一文を短くする — 公用文 2022(一次)。数値は読者層依存(B 節)
- 能動態・主語明示(受身濫用回避) — 公用文 2022(一次)+ Nygard "We will…"
- 二重否定の回避 — 公用文 2022(一次・逐語確認)+やさしい日本語
- 専門用語・略語の初出定義 — 公用文 2022(一次・逐語確認)
- 三項以上は箇条書き/情報の階層化 — 公用文 2022(一次)+ JIS Z 8301
- ADR = Context / Decision / Consequences — Nygard 2011(原典)
- ADR = 代替案と不採用理由を明記 — MADR / 実務ガイド
- ADR = 議事録でなく決定の台帳(過程痕跡を残さない) — ThoughtWorks ほか(実務デファクト・D 節)
主な一次出典
- 文化審議会建議『公用文作成の考え方』(2022) — bunka.go.jp(PDF 逐語確認)
- やさしい日本語ガイドライン (2020、出入国在留管理庁・文化庁)
- jReadability / Lee & Hasebe (2016)、jreadability.net
- 柴崎秀子ら (2010) KAKEN 課題番号 19300277
- Michael Nygard "Documenting Architecture Decisions" (2011)、MADR、adr.github.io
- JIS Z 8301、textlint
preset-ja-technical-writing
付記: 次に当たるべき未解決の一次出典
- TC 協会『日本語スタイルガイド』第 3/4 版が定める具体的な数値規則(一文長上限・一文一義の明文)の本文一次確認
- 「ADR に審査過程を残さない」を明文化した一次出典(adr.github.io / MADR 公式テンプレ / Nygard 後続文献)
- 記者ハンドブック(共同通信)・JIS Z 8301 の可読性条項と公用文/やさしい日本語の異同